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2006年11月

2006年11月 7日 (火)

第八幕 東池袋1丁目の奇跡

 12月25日午後11時30分。もうすぐクリスマスが終わる。あと30分もすれば、商店街や地下街のクリスマス関係のデコレーションはあっというまに撤去され、街全体が正月モードに変わるはずだ。
 ツインズのクリスマス・イベントは毎年、12月22日、24、25日の3日間行なわれる。1日飛ぶのは23日が天皇誕生日で休みだからだ。
 今夜は早い時間に客がどっと押し寄せ、さっきまでほとんどの席が埋まっていたのに、11時頃にはすべての客が帰っていった。
 真紀と理絵は顔を見合わせ、深いため息をつく。一大イベントが終わった安堵感と、1年間の疲労感、そして今までの数年間の思い出が去来する。もちろんあと何人か客が来てくれれば、年末の支払いも楽なのにな、とも思った。 
 何年商売をしてきても、水商売の神様の気まぐれにはいつも翻弄される。今夜にしても、もう少しバラけて客が入ってくれれば、もっと充実したサービスができたものを。
「水商売の神様は、きっと私たちが嫌いなんだ」
 真紀と理絵はいつもそう思う。ある夜は、信じられないくらい客が押し寄せ、何人もの客に頭を下げて帰ってもらったのに、翌日は客が全く来ない。昨日の客の何人かが、今日来てくれればいいのに……。そう思った夜が今年だけでいったい何日あったのだろうか。
 でも水商売の神様は、真紀と理絵が嫌いなわけではなく、真紀や理絵を含めた水商売の経営者を困らせるのが好きないじわるなヤツなんだろう。2人がよく行くショットバーのマスターは、こう分析する。
「ウチの店で飲みたい気分のときって、ほとんどのお客さんが同じなんですよ。だから同じ日の同じ時間帯に客が集中する。じゃあ、それはどんなときなんだ? って聞かれても、皆目わかりません。それがわかれば、バーをたたんで、水商売のコンサルタントはじめますよ。大成功間違いなしで、大儲けできる」
 真紀と理絵は、店の片付けする気分にまったくなれず、カウンターに座る。最近、疲れやすくなった。酒も弱くなった。
 女の子たちもカウンターに座らせ、好きな飲み物を飲むようにすすめた。女の子たちは、無邪気にお正月の予定を語り合っている。子供の頃は、クリスマスとお正月が何であんなにうれしかったのだろう。サンタクロースの存在はいつまで信じていたんだっけ……。
「あの子のところにはサンタクロースが来たかな?」
 真紀が理絵に向かってつぶやく。
「来てるといいな……」
 理絵は少年たちの澄んだ瞳を思い出し、やさしく微笑んだ。

   ● ●   ● ● ●   ●

 あれは10日くらい前、店が休みの土曜日の夜だった。2人は自宅近くのコンビニに買い物に出かけた。入口近くの成人向け雑誌の前には、ガラの悪そうな若者が3人たむろしていた。 
「やりてぇ~」
 スケベ雑誌を手にした1人がそう叫ぶと、左側にいた若者が雑誌をのぞみ込み、自分が見ていた雑誌を見せる。
「こっちのほうが胸でかいしぃ~」
ほしのあきに似てない?」
 男どもはどうして胸がデカい女が好きなのだろうか。巨乳、爆乳などとバストの大きい女性を賛美する。
「どうせ私たちは貧乳、ショボ乳よ」
 とすねる双子であった。先日も、理絵のついた客が替え歌を歌っていた。
「飾りじゃないのよ、乳首は、ハ~ハ~♪」
「じゃあ、何よ! 私の乳首は単に、前と後ろを確認するためについてるわけ?」
 理絵は珍しく、客に執拗に食ってかかった。
「家に帰って、ママのおっぱいでも吸ってなさい、坊や!」
 不良少年たちに聞こえないようににくまれ口をたたく。
 同じく雑誌売場の棚の前には、小学生低学年の男の子たちが4人、1冊のゲーム攻略本を見ていた。おそらく塾帰りなんだろう、持っているバッグはそれぞれアニメキャラやブランドもの、スポーツ系と違うけど、テキストやノートがバッグからはみ出している。
「このゲーム、クリスマスに買ってもらおっと」
 1人の少年がそういうと、4人の中で一番幼い顔をした少年が、
「今年はサンタさん、何持ってきてくれるんだろう。みんなはサンタさんに何頼んだの?」 
 残りの少年たちは「こいつ、何いってるんだろう?」って顔をした。
「アキラ、まだサンタクロースなんか信じてるの」
「サンタクロースなんかいないんだぞ」
「サンタはパパなんだよ」
 口々にアキラ君をやり込め出した。
「サンタさんは絶対いるよ!」
 アキラ君は口をとがらせ、反論した。
「だっておととし、ボクが自転車が欲しいっていったら、パパは『そんな高くて大きなもの、サンタさんだって困るし、もっと小さなものを頼みなさい』って反対したのにクリスマスの朝には枕許に5段ギアの自転車が置いてあったし、去年だって、ボクが天体望遠鏡が欲しいっていったら、『東京じゃどっちみち星なんか見えないし、すぐ飽きちゃうから、サンタさんは持ってきてくれないと思う』ってパパはいい返事しなかった。でもクリスマスの朝には、ボクが欲しかったやつの倍くらい高くて大きな天体望遠鏡が来てたんだ」
 3人が信じられないという顔をしてるので、アキラ君は続ける。
「『パパが反対したのになんでかなあ。アキラはあんまり勉強好きじゃないけど、妹のチカちゃんにも友達にもやさしいから、サンタさんのごほうびなんだな』ってパパ、そういったもん」
 アキラ君がムキになったので、またまた3人が面白そうにからかいはじめた。
 毎年クリスマスイブの夜、アキラ君を寝かしつけたパパは、どこかに隠していたプレゼントを引っ張り出してきて、アキラ君の枕許に置くのだろう。それにしても自転車を見つからないようにどこに隠したのだろう。アキラ君が眠ったあと、預けていた自転車屋に取りに行ったのかもしれない。
 パパがダメだといったからあきらめていたプレゼントが、クリスマスの朝、アキラ君に届く。それを手に取ったアキラ君の喜ぶ顔が目に見えるようだ。なんと手の込んだ演出だろう。 
 真紀と理絵は、アキラ君のパパの涙ぐましい努力とやさしい人柄を思い浮かべて、なんだかほのぼのとした気持ちになってきた。ファザコンの双子は、数年前に亡くなったパパのことを思い出した。
「アキラが寝てるあいだにパパがプレゼント置いてるんだよ」
「そんなことないよ」
「サンタクロース、見たこと、あんのかよ」
「見た……ことはないけど、後ろ姿は見たような」
「うそつき!」
「うちはクリスマスの1週間前になると、これで好きなもの買いなさいってパパがおこづかいくれる」
「サンタなんか信じてるから、アキラは算数の九九もできないんだよ」
「信じられない! ばっかじゃないの」
 3人がアキラ君をうそつき呼ばわりしはじめたので、アキラ君は今にも泣きそうになりながら、
「そんなことないよ、サンタさんはいるよ」
 とくり返す。
「クリスマスツリーを飾った夜に、靴下をぶら下げて、欲しいプレゼントを書いた紙をその中に入れるんだ」
 アキラ君の目から大粒の涙がポロッとこぼれたとき、隣でエロ本を読んでいた若者の一番不良ぽいのが、男の子たちに声をかけた。
「あのさ~、ちょっと話あるんだけどさ~、表に出ない?」
 男の子たちの目がおびえる。
「すぐ終わるからさ」
 残りの若者が取り囲むようにして、男の子たちを店の外に連れ出そうとしている。子供たちの会話の一部始終を聞いていた真紀と理絵は「やばい」と感じた。
 あのツッパリたちは、きっと高校生活になじめず、ドロップアウトしたに違いない。勉強にもついていけなかったのだろう。それに比べ小学生低学年から、塾通いする子供たちが気に入らないのだろう。あんな小さな子供たちが、かつあげでもされたら、一生のキズになる……。
「どうする?」
 小声で相談しいてるあいだに、店の外に7人は出ていった。なじみの店員もただごとではないと感じていたのだろう、2人に「どうしましょう?」という顔をする。
「合図したら、すぐに警察に電話して!」
 って頼むとあとを追うように表に出た。コンビニの前は小さな公園になっている。公園を入ったところに大きな楠があって、その下に3人の不良は男の子たちと視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。少年たちの背たけが、不良よりちょっとだけでかくなる。おびえ切っていた少年たちの顔が、少しだけ安心した。リーダー格の不良が、
「驚かないで聞いてほしいんだけどさ~」
 意外に普通のしゃべり方だ。
「サンタクロースはいるんだぜ!」
 子供たちが驚くと期待していたのに何の反応もなくて、リーダーはかわいそうなぐらい落胆している。
「お兄ちゃんたちさ、去年のクリスマスの夜、サンタクロースと会ったんだよ」
 背が一番小さな赤いジャージを着ている若者が続ける。
「テレビで観るのと同じ、赤い服着ててさ、こんな白い髭生やしてて、びっくらこいた。オレに、たばこと酒、くれよ! って頼んだらよ、『未成年はダメ!』ってこっぴどく叱られてさ、かわりに風船ガムもらった」
 今度は、鼻にピアスつけたジャニーズ系の顔をした不良の番だ。
「お兄ちゃんたちさ、サンタさんと連絡する方法、知ってるからさ、欲しいものがあったらいってみな。頼んでやるから」
 アキラ君を除く3人は目を合わせて、「こいつら、ばっかじゃないの」といわんばかりにあきれた顔をすると、一目散に逃げていく。ちょっと遅れてアキラ君も走り出したが、5メートル先で急ブレーキをかけて3人の不良のほうに向き直った。
「ボクさ、ラジコンカーが欲しいんです。サンタさんにいっといてくれる?」
 よく見るとかわいい顔をしている3人の不良は、ニヤッと笑うとアキラ君に指でOKサインを出した。するとアキラ君はVサインを送り、
「そんなに高くないのでいいから」
 そういうと、ピョコンと頭を下げた。そして仲間たちのあとを追うように駆け出していく。リーダーの不良が、
「しっかり勉強しろよ!」
 って大声で叫ぶ。残りの2人が、
「オレらにそんなこという資格あったっけ?」
「ないない」
 とツッコむと、大笑いをした。屈託のない、さわやかな笑顔だった。
 真紀と理絵は、この若者たちとどうしても話したくなった。
「ねえ、キミたち!」
 真紀が呼びかけると、3人の不良はあわてて立ち上がり直立不動の姿勢を取る。双子に比べると20センチ以上背が高い。
 双子が住む大山は、池袋からタクシーで10分くらいで、やくざが多いので有名であるが、やくざに絡まれたことは一度もない。というより大山界隈では一目置かれているらしく、行き交うチンピラも双子の姿を認めると道を空ける。遠巻きにチンピラの兄貴分が弟分に小声で話しているのが聞こえる。
「あれが有名な大山の双子だぜ。覚えとけよ」
 真紀と理絵が醸し出す雰囲気がそうさせるのだろうか。今回も不良たちのほうが怖がっているように見える。
「キミたち、子供が好きなんだね」
 と真紀が語りかける。ああやって大人がしゃがんであげるのは、子供に威圧感を与えないためだ。小さな子供と話すときの基本だけど、それを知っているのは大人でも少ない。この若者たちはおそらく誰に教えられたのでもなく、ごく自然にそうした。
「子供のくせに、子供好きなんだ~」
 理絵がそういうと、赤ジャージがムッとする。理絵は心を許せそうな相手には毒のあるせりふを吐く。
「おねえさんたち、キミたちに頼みごとがあるんだけどな……」
 理絵がいつものアニメ声を出すと、リーダーが恐る恐る小さな声で尋ねる。
「なんでしょうか?」
「サンタさんに、どうしてもお願いして欲しいことがあるのよ」
 ジャニーズ系が、シドロモドロになりながら、
「それは、あのアキラってヤツが、困ってたから、口からでまかせっていうか……うそっていうか……ボ、ボク、サンタさんのケータイも知らないし……」
 わかりきっていることを一生懸命弁解している。
「いいのよ。うそでも何でも……。キミたちに伝言してもらいたい気分なの!」
 強い口調で真紀がいうと、
「ハイ」
 見かけによらず素直だ。まず真紀だ。
「クリスマスプレゼントなんだけど、私はとびっきりいい男が欲しい!」
 理絵が続ける。
「私は、福沢諭吉がいっぱい欲しいわ」
 困ったような顔をしている3人が可愛くて、双子は抱きしめたくなる。抱きしめるわけには行かないから、真紀と理絵はかわるがわる3人の右手を両手で握ると、耳元で「ありがとう」っていい、頬にキスをした。
 3人はドギマギして、夜の公園でもはっきりわかるほど頬を真っ赤に染めた。妙齢というには歳は行き過ぎているかもしれないが、年上の女性には弱い年代である。
「ちゃんとサンタさんに伝えてね。頼んだからね」
 ポカンとした若者たちを尻目に、2人はコンビニに戻っていく。うしろで若者たちが、
「おばさんにキスされちゃった」
 っていいながら頬を押さえている。まんざらでもなさそうである。すかさず双子はふりむき、3人をにらみつける。すると少年たちは小さな声で声をそろえて、
「おねえさんに……です」
 といい直した。双子が「わかればいいのよ」といわんばかりに首を縦に振る。リーダーが勇気をふりしぼって聞く。
「お、お、おねえさん! と、と、と、年いくつですか?」
 真紀がドスの効いたアニメ声で返事をする。
「いい度胸してるね」
 3人は震えながら後ろに一歩下がった。
「ま、告白しちゃうけどさ、私、20歳若かったら、キミたちにゼッタイ惚れてるよ」
 理絵がドスの効いてないアニメ声で続ける。
「私も告白しちゃうけどさ、キミたちさ……、ホント、めっちゃ、カッコいいよ!」
 そういうと、両腕を伸ばして手をピストルの形にして、「バン」と撃つ。ノリのいい若者たちは胸を押さえてくれた。

   ● ●   ● ● ●   ●

「アキラ君っていったっけ?」
「今頃、ラジコンカーを組み立てているかもね」
「あのツッパリ君たちにもメリークリスマス!」
 双子は持っているワイングラスを重ねた。彼らのおかげで今、この時間、ちょっぴりピュアな気持ちにさせてもらっている。ひょっとすると、とても素敵なクリスマスを過ごしているかもしれない。
 真紀が腰を上げる。理絵が腕時計を見る。
 11時50分。
「今夜はそろそろ終わりにしようか」
 女の子たちにそう伝えようと思った瞬間、店のドアが勢いよく開いた。
「メリークリスマス!」
 入ってきたのは常連の中さんと古川さん。手にはどうせ売れ残りを買わされたのだろう、クリスマスケーキを持っている。
 その1分後、今度はモリケンと辻さんが、
「階段の下で会った」
 とかいいながら、「メリークリスマス!」とケーキを2つ差し出す。さっきと同じ包装紙に包まれている。
 そのあとは、須古さん、狩野さん、山ちゃん、タナちゃん、板ちゃん、松岡さん、大野さん……カウンター族ばかりが集まってきた。最後に入ってきたのは去年店をやめた智子ちゃん。10分の間に12人もの客が押し寄せ、真紀も理絵も鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
 カウンターの上に重ねられた6つのクリスマスケーキはうんざりでも、集まってくれたのはうれしい顔ばかりだ。
 ツインズを開店する前、真紀と理絵は、
「気楽に1人で遊びに来て、カウンターで楽しめる店にしたい」
 と話し合っていた。そんな客(彼女たちは彼らをカウンター族と呼ぶ)が1人増えるたびに双子はうれしくて仕方がなかった。
 ボックス席で、女の子をからかいながらカラオケを歌って憂さを晴らしてくれる客、接待に使ってくださる客はそれでとても大切なお客さんだ。客の差別をしてはいけないのだが、それでも双子はカウンター族を一番大切にしてきた。
 1人で来た客同士が仲良くなるのに、時間はかからなかった。開店1年後には、お互い冗談をいい合えるカウンター族が20人ほどできた。
 客の立場からしても、ツインズは貴重な場所になった。学生時代の友達は疎遠になってるし、仕事関係の人と打ち解けるのは難しいが、ツインズで知り合った人とは、何の利害関係もない。世代的にも近い人が多く、会社や役職を抜きにしてつき合えるのだ。
 この店で知り合いになり、親交を深め、ゴルフや競馬、食事に行く間柄になった人もいる。開店当時は2週間に1回は来ていたのに、最近は3ヵ月に1度という人もいるから、久しぶりに再会した客が懐かしそうに話している。
 あっちから「真紀!」、こっちから「理絵!」と声がかかるたびに2人は狭い店の中を行ったり来たりする。足を踏んだり、ぶつかったりするのだが、誰も気にしない。
「真紀~、みんなでシャンパンあけよう」
「それ、いいねいいね」
「乾杯しよう」
 客が盛り上がる。支払いのことを何もいわないのは、ここに来る前にみんなで示し合わせている証拠だ。
「今夜集まるって、誰がいいだしたのよ?」
 理絵が聞き出そうとする。
「誰でもいいじゃん。クリスマスにみんなツインズで真紀と理絵と飲みたかったんだよ」
「ちょっと少なかったけど12人、みんな同じ気持ち」
「何の遠慮もなく、気のおけない仲間たちと酒を飲む。誰も無理して来てないよ」
「あれ~、真紀と理絵、泣きそう?」
 そんなことわざわざいわなれなくても、本当に泣きそうだった、2人とも。でも転んではタダでは起きないのだ、この2人は。
「売上がこんなに上がって、うれしくて泣きそう~」
「シャンパン、10本空けますか?」
 客だって負けてはいない。
「うん、クリスマスなんだから10本空けちゃおう。理絵、奥からシャンパン10本出しなさいよ」
 実は、今夜、シャンパンはもう1本しか残っていない。カウンター族はそんなこともお見通しなのだ。
 シャンパンをグラスに注ぎながら、真紀が泣きそうな声で理絵に話しかける。
「理絵ちゃん、サンタさん、本当に来ちゃったよ!」
 理絵は思い切りはしゃいだ声で返事をする。
「最高のクリスマスプレゼントが届いたね」
「ツッパリ君たちのいった通りだね」
「お願いが叶っちゃった」
「とびっきりのいい男が、それも11人もだよ。智ちゃんも来てくれたし」
「私、後悔している。お金をいっぱいなんて頼まなきゃよかった。みんなが来てくれただけで十分なのに……」
 シャンパンがお情けほど入ったグラスが全員に行き渡ると、宴会部長の狩野さんがマイクを持った。
「宴もたけなわではありますが、ここで一言、スカートとスピーチは短いほうがいいと申しますが」
 ここまでいうと、他の客がヅッコケる。カウンター族のお決まりだ。
「コラ! 双子! 仕事のこともすっかり忘れてリラックスしすぎ。それではみなさん、チャランポランで愛すべきツインズの真紀と理絵のますますのご発展を祈り」
 そのあとを真紀と理絵が続ける。
「今夜、集まってくださった心優しいサンタクロースさんたちに」
「メリークリスマス!」

   ● ●   ● ● ●   ●

 クリスマスは誰にでもやってくる。あとはサンタクロースを信じるかどうかだけだ。信じている人が、信じてない人より偉いわけでも正しいわけでもない。信じた人のほうが、信じてない人より、今夜だけはちょっと人にやさしくなれるかもしれない。違いといえばただそれだけだ。
 有線からジョン・レノンの『ハッピークリスマス』が流れている。

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〈本章のアイデアは敬愛する貧乏ライター高橋克典の『ひと駅だけのレム睡眠』(メタモル出版)収録「サンタが街にやってくる」からいただきました〉。

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